近藤裕希のページ
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いつだって私は貧乏くじ
「それにしても、あなたがまだその剣を持ってるなんて、ちょっぴり驚いたなあ」
クリケは宿屋の給仕にマイランの側に椅子を用意してもらい、手のひらを暖炉の火にかざして温めていた。その横顔をマイランは感慨深げに見つめていた。クリケが何も言わないので、マイランはローランチェリーの森の滝壺の庭園でのクリケとの初対面を思い出し、思わず顔をほころばせた。色々、大人になったようで、クリケはクリケでしかない。
「僕だって、アル・カトスの剣をもう一度、手にするなんて夢にも思わなかったよ。ナクサズの剣が僕の手許に戻って来るっていうのなら、なんとなしにそんな予感を持ったこともあったけどね」
結構な間、クリケは黙りこくっていたが、やがて、これまでの事を話し出した。フン、フン、とマイランはふんわりと相づちを打ちながら、クリケの話を聞いていたが、やがて、思い出したようにさらりとクリケに大事なことを言った。
「あなた、剣の使徒に復帰する気持ちはある?ええと、まあ、あなたは自覚してないだけで、あなたは剣の使徒のままなんだけれどね。実はあなたの近くにナクサズの剣があるんだけどなあ。いいじゃない、アル・カトスの剣なんて放り出しちゃえば。やっぱりあなたに相応しいのはナクサズの剣よ」
クリケはマイランの言葉に素直に頷けず、困って下を向いた。マイランは唇の端を噛み締め、腫れ物に触るように、アル・カトスの剣に手を伸ばした。そして、掴もうとしたが、寸前で気が変わったのか、手を引っ込めた。
「クリケ、あなたを私の空飛ぶ馬車に乗せてあげる。いい?これはとても名誉なことなの。私は他人を自分の馬車に乗せたことは一度だって無いんだから」
クリケは嬉しそうに微かに笑みを浮かべたが、マイランはクリケがいつのまにか遠い存在になってしまったような、そんな気がして思わず彼に手を伸ばそうとした。だが、クリケが何か物思いに耽りながら暖炉の火を見つめているその瞳の奥にあるものを知り、差し出しかけた手を自分の膝上に何もなかった風情で戻した。マイランはクリケに気付かれないようにわずかな呼吸の乱れを静め、そっとため息をついた。それは、彼女の身の上にはよくある出来事だった。
2012年1月9日月曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第七十二話