近藤裕希のページ
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冬の嵐は止んだけれど
王都は、少し前に訪れた港湾都市マインのような猥雑な活気の無い静かな街だった。クリケは母親から貰った白馬を曳き、眉をしかめながら、建国以来繁栄を享受して来たというこの古の都を歩いている。行き交う人々の品も身なりも悪くない。乳白色を基調とした時代を感じさせる建物の様式も街並も、細工が過ぎることもなく、静かに、穏やかに洗練された優美な香りが漂っている。クリケが子供の頃に夢想した桃源郷のようなこの都で、何処にもケチを付ける箇所など無い。それでも、クリケの気分は晴れずにいた。
風雪の嵐は既に過ぎ去り、今は嘘のように澄んだ空模様である。冬の黄昏も束の間で、星が徐々に瞬き始め、辺りは薄い暗闇に沈んだ。大気が一層冷え込み、クリケは昔に母が亡き父の為に織ったという褐色のマントを身体に堅く巻きつけた。
道沿いに等間隔に配置された街灯に油が流れ出し、魔法のように順々にそのカンテラが灯り、仄かに街並を照らした。二、三人の子供を連れた婦人とすれ違い、子供の一人が興味深そうにクリケを見上げた。クリケが振り返ると、婦人は小声で叱りつけながら子供の腕を引っ張り、そのまま去って行った。
何事もない、これが現実なのかな。クリケはアル・カトスの苦悶に満ちたあの表情を、クリケに向けたあの眼差しを思いつつ、何が本当なのか確信を持てなくなった。世間は、クリケなどに意を介さぬまま、それぞれの暮らしに追われている。
2012年1月6日金曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第六十九話