近藤裕希のページ
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王国に漂うもの
「すいません、ちっちゃなおっさんみたいなのと、頭が禿げた二枚舌の男の二人組が何処へいるか分かりますか?ええっと、ちょっと逸れちゃったんです」
館内案内所で行方を眩ました二人について尋ねたクリケだが、フワフワと妙な節がついた口調になってしまった。置いてけぼりを食わされた腹立ちのせいか、かしこまった場所に来て緊張したのか、はたまた、思いも寄らぬ原因が他にあるのか。そんなあられもないことを考えながら上の空で突っ立っているクリケに、案内所の受付に座り俯いて本を読んでいた三十歳前後の男性が面倒臭そうに顔を上げた。
「君もオルファルリア先生の知り合いだって言うのかい?やれやれ、何でこんな連中がやって来る日に、私が受付当番なんだろうな」
「あ、やっぱり来たんですね。あの二人。僕はアモン王の守護者アル・カトスについて・・・」
「君ね、大人をからかうのもいい加減にしてくれよ。どこでそんなおとぎ話を読んだのかは知らないけれど、蝶よ花よの夢物語は此処では扱ってないんだよ。志を持って懸命に勉学に励んだ王国中の若者たちから厳正なる審査により選ばれた者しかやって来てはいけない場所なんだよ、此処はね。だから、君みたいな子が私に横柄な態度を取るのは許されないことなんだ。分かる?」
男の言葉を聞いてクリケは頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。衝撃はあるものの、痛みは感じない、言いようのない不快な感情である。感覚ではなく感情である。男の何が悪いのか、クリケには分からなかった。オルファルリアならば、おじいさんなら、このような事は言わないのに。それだけを思った。そして、得体の知れないものに押さえつけられるその感覚を振り払おうと、その一心で口を開けた。顔面が痺れてしまったような、そんな感触に逆らおうとした。
「彼から助けてくれって頼まれたんだ。僕はどうしたらいいか、分からない。でも、何とかしなきゃいけないんだ。だから、ここに来たんです。オルファルリアの知り合いだから来たわけじゃ無い」
クリケは、証を示そうと、腰にぶら下げていたアル・カトスの剣を鞘ごと男の前に差し出した。手が震えるのをクリケは抑えることが出来なかった。
「この剣は何処から手に入れたんだ?王国建国前の品じゃあないか。君のような子が持っていていい代物じゃないぞ」
クリケは憤りを通り越して何だか空しいような悲しいようなそんな気持ちになった。こんな場所に大切な何かがあるとは思えなかった。クリケは、黙ってシェルフルド学院を逃げるようにして去った。
期せずして、ツォルンとシュプーンとも離ればなれになってしまって一人になってしまったけれど、大いなる意思が深い何事かを思い、このような処遇を自分に与えるのだとクリケは自身に言い聞かせた。いつの間にか、クリケはすれ違う人々の姿にすら、目を向けたくなくなっていた。ただ、王都に雪を撒き散らす分厚い灰色雲が重苦しく、クリケは言いようのない息詰りを覚えた。
2012年1月5日木曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第六十八話