近藤裕希のページ
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穏やかな庭園にて
学院の門を抜けてクリケが驚いたのは、街中のとは思えない程に広大な庭園が門と学院の本館との間に横たわり、気温が門の外に比べてやんわりと暖かいことだった。彼の目の前にある庭園は瑞々しい芝生と低木が植えられ、その中央を輝光石ではない乳白色の石板を敷き詰めた道により、本館に向かって一直線に貫かれていた。王都を襲う雪嵐など何処へ行ったやら、雲一つ無い明るい空が学院の頭上に広がっている。ただ、太陽が見当たらず、何処から光が射しているのか、クリケには感覚的に捉えられず、彼を落ち着かない気分にさせた。その違和感をツォルン、シュプーンと共有しようと振り返ると、二人の姿が無かった。クリケは度を失い、彼の視線が方々に彷徨った。そして、気がつけば、二人はクリケを置いて本館への白い道を何か言葉を交わしながら歩いており、随分と隔たってしまっていた。
「待ってよ!」
二人にはクリケの声が届かないようだった。クリケは気が挫け、後を追う事も躊躇ってしまい、二人の姿が本館に消えるまでじっとその場に立ち尽くしていた。これはどういうことかとクリケは訝ったが、とにかく自分も学院本館に入館しよう、でないと何も始まらないと思い直して道を歩き始めた。
クリケはモヤモヤとした気持ちを抱えたまま歩いていたのでしばらく気づかなかったが、本館から誰かが出て来た。すれ違おうとする少し前でようやくクリケはそれに気がつき、ふと相手と視線が合った。すらりとした若い女性だった。彼女は興味深げにクリケを見ていたが、やがて、ちょっと会釈をしてそのまま何事も無かったかのようにすれ違って行った。クリケは彼女に見覚えは無かったのだが、何故だか以前から見知っている人のように自然な居心地の良さを彼女に感じた。アル・カトスのことも、オルファルリアのことも、おじいさんのことも、その一瞬だけ忘れた。狐につままれた気分でクリケは本館の入り口へと歩き続け、やがて、その緑味を帯びた分厚いガラス製の扉を開け、入館したのだった。
2012年1月4日水曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第六十七話