近藤裕希のページ
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書く人と書かれる人
「クリケ。あなた、これから何処へ行って何をするの?私としてはあなたの物語を書いてあげてるわけだから、こういうこと、聞くのよ。まんざらでもないでしょ?取材される気分っていうの」
二人は王都に戻り、こうして「文豪来たれり亭」にいる。
「僕の物語?今、僕の物語を書いてくれているの?」
「そうよ、私は気が向いた時に気が向いた話を書くの。今はあなたって気分なわけ。嬉しいんでしょ?分かってるのよ、あなた、すぐ顔に出るもの」
マイランは意地悪そうに含み笑いをした。クリケはどう反応してよいやら困ってしまって、とりあえず手にしていた生姜湯の入った湯呑みを口元に近づけ、その香りを嗅いでいるふりをしてみた。だが、じきにそんな自分が情けなくなり、思ったことを喋り出した。
「とにかく、ひとまずアル・カトスの墳墓へ向かうよ。彼と実際会ってみないと、これからどうしたらいいんだか、見当もつかないんだ。会ったからって、どうなるってわけでもないだろうけれど、夢か幻かで出会った時には思わず彼から逃げ出してしまったから、それが心残りなんだ。彼と並んで座って話をしてね、僕たちこれからどうしようかなって呟いたら、とりあえず次のステップに進めそうな気がして」
「逃げ出したとか、そんなこと気にしてるの?あなたは相変わらず真面目なのねえ。じゃあ、私は今回も鳩になってパタパタ逃げ出すとするわ。もうね、真面目な話には辟易しちゃってるわけよ、私としては。でも、その前にあなたにこれ、あげちゃう」
マイランは何処からともなく石板を一枚取り出した。ツォルンの表現を借りるならば魔法の便利石板という奴である。
「これにはね、私のお気に入りの物語が一杯詰まってるの。もちろん、あなたが大好きな"セデンの魔法の書"もあるわよ。気が向けば、このペンでメッセージを書き込んでね。あなたに関心のある人のところにきっとあなたのメッセージ、届くと思うわ。もちろん、私にもね」
よく考えたら、そう急いで出かける必要もないか。宿の主人フィッへ翁から新しいホットレモンを受け取りながら、彼女はそんな風に嘯くのだった。
2012年1月19日木曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第八十二話