近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

馬鹿な己に気付いたら

 老人はミリャルドを連れて、クロノスの大平原を南下し、とある軍道を逸れて台形のピラミッドのような巨大な建造物にやって来た。かつて、猪の面の騎士がクリケを悲しみの象ボルンウァッドに出会わせた場所である。

「おい、こら。お前はまだこんな所で居眠りこいてるのかよ」

 老人がピラミッドの入り口で微睡んでいたボルンウァッドのふっくらとした頬を杖で小突いた。悲しみの象は煩わしそうに瞼を開いた。

「いかなるお方であろうとも私の深い沈思を妨げるは許されぬこと。ご老人、急いても何も生まれはしませぬぞ」

「おい、聞いたか?」

 老人はゲラゲラと笑いながらミリャルドを振り返った。

「こいつはそれらしい台詞を吐きやがるが、何も語っちゃあいないぜ。まるで、お前さんそのものだ」

 これにはさすがのミリャルドも腹が立った。世の中、言って良い事と悪い事がある。

「いばらの冠のじいさん、あなたは人として間違っているよ。あなたがどれだけ偉かろうと、聡かろうと、そんな風に嘲笑うのは俺は耐えられないよ」

 老人は目をぱちくりさせ、そっぽを向いて鼻の穴に人差し指を突っ込んで鼻くそをほじった。

「なあ、ミリャルド。わしにはクリケって名のガキがいてな。チンケで馬鹿な奴なんだよ、お前さんみたいにな。大した意気地も覚悟も無い癖に、自分には何か出来るって信じてやがる。わしはこんなだから、お前さんがそう言うのも分からんでもない。だが、わしはそうした浅はかなクリケが愛おしくてたまらんのだ。あいつが何も分かっちゃいない赤ん坊の頃からずっと面倒を見て来たんだからな」

「ご老人、それこそが愛というものでありましょうな」

「お前はやっぱり何も分かっちゃいない」

 老人はもっともらしく微笑むボルンウァッドの大きな額を杖でピシパシとはたき、鼻をグスグスを啜った。


 

2012年1月14日土曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第七十七話

 
 
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