近藤裕希のページ
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認めたくないもの
クリケはマイランの空飛ぶ馬車に乗り、彼女と共に果て無き山脈の頂へとやって来た。道中、二人は特に何も喋らなかった。クリケはとりとめのない物思いに耽り、マイランは時折そんなクリケの様子を窺いながらマンドリンの弦をパチンパチンとつまらなさそうに弾いていた。
「あなた、グロウゼオ・ビュロスって知ってる?」
頂から少し離れた場所に空飛ぶユニコーンを繋いだ馬車を置き、ナクサズの剣が突き立った頂の台座へ歩く途中、マイランは何気ない口調で語り出した。
「この国の頂点に立つ人。王様じゃあ、ないわよ。長い間、深紅の薔薇騎士団を率いて来た人。ううん、彼がどういう立場の人なのかは関係ないわね。私が伝えたかったのは、その人がナクサズの剣をここに持って来たって事。ちょっと前にね、月夜の夜会っていう集いがあって、彼、そこに来たの。彼はあなたの事は知らないけれど、全てが終わればあなたに身を委ねる、そう言っていたわ。
「世の中ってつまんないとこだけど、時々、こういう面白い事が起こるのよね。大の男が知らぬ侭に、あなたに運命を委ねようとしているのよ。彼がナクサズの剣の主があなたみたいな子供だって知ったらどんな顔するんでしょうね。ほんと、滑稽」
彼女は頬を紅く染めながら辛辣に吐き捨てた。何か、やり場の無い怒りを感じているように。そんな表情をマイランが見せるなんて、クリケは想像もしなかった。何も言えぬまま、彼は彼女の横顔を見つめた。やがて、マイランはクリケの視線に気付き、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「馬鹿ね、私ったら。あなたに当たったりなんかして。気にしないでね、クリケ。私にだって、人には言いたくない事情の一つや二つ、あるのよ」
そのまま二人は果て無き山脈の頂に辿り着き、空っぽになった大釜の番をする老婆ジャヤワナが二人を暖かく迎えた。
2012年1月10日火曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第七十三話