近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

座礁したままの夢

 ジャルヴァラン人の大軍団を地上から消し去ってしまったあの奇蹟が起こった日のように、クリケは世界のあらゆるものを見ていた。そして、世界のあらゆるものがクリケを見つめていた。しかし、クリケは自身に向けられる熱い眼差し全てを意に介しなかった。今、彼は自分が何者であるかにも関心が無くなっていた。

 空を飛んでいる。時に、ゆっくりと大きな翼を羽ばたかせ、時に、気流に乗り、大空を自由に旋回した。地上に蠢く全ての生き物が、クリケを振り仰ぎ、祈りを捧げた。彼の心に何事かが満ち溢れ、それを吐き出したくなった。

 クリケの咆哮が世界中に轟いた。あらゆる方向に風が吹き荒れ、ぶつかり合った。鈍い轟音が世界を震わせ、更に酷くなった。地表を覆っていた岩石や木々が剥がれ、宙に浮かび上がり、乱気流に巻き込まれてグルグルと空を狂喜乱舞した。

 世界が荒れる様を危機感無く眺めていたその刹那、鈍い衝撃がクリケを襲い、彼の意識は漆黒に塗り潰された。彼は、漆黒の空間をフラフラと彷徨った。ひたひたと水が垂れて地面に当たる音がする方へと吸い寄せられて行った。そして、胸を剣で貫かれ仰向けに倒れている騎士を見つけた。

「とうとう来たか。慈悲を、そなたが私に安息を与えてくれるのか」

 クリケは騎士の傍らに、そっとしゃがんだ。彼が差し伸べた手を騎士が握った。騎士の手は悲しい程冷たかった。クリケは何も分からなかったが、どうしようもなく悲しくなって、ポロポロと涙を零した。クリケの涙に騎士の手が濡れた。

「私は、身も心も醜い男だ。私がこの世でもっとも愛し、信頼した者によってこの地に束縛され、裏切られた愚かな男だ。私は盲目であった。私は一方的に愛と信頼をその方に注ぎ、彼女は閉塞感に苦しみ、私をこのようにした。私は、彼女を私との忌まわしい記憶から解放し、私も全てを忘れ、安らかなる眠りにつきたい。そなたがそれを、私の人生の結末を与えてくれるのだろう?」

「僕はどうすればいいの?」

「分からぬ。私は分からぬ故にこうして身の苦痛と心の苦悶を持て余してここにこうして横たわっているのだ。そなたが、私を導いてくれると、ただ、信じているだけだ」

 クリケはこの騎士にどうしてやれば良いか、本当に分からず、騎士から逃れようと立ち上がり、暗闇の中を無我夢中に走った。「頼む、アモンを頼む」そう、彼の脳内に騎士の声が響き渡り続けた。

 

2011年12月9日金曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第四十六話

 
 
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