近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

もう一度、会いたい人

 クリケが母親ラライ・デュバルシーの許に戻ってから数日が過ぎた。日々、母ラライ・デュバルシーと語らい合った。ラライ・デュバルシーはクリケに故フォルク卿の思い出話やウルフェンクの古城にまつわる様々な逸話を話した。クリケはここ数ヶ月のナクサズの剣と共に各地を巡った旅の話をした。

 やがて、二人には、今、特に話さねばならぬ話題も無くなった。自然に、クリケはオルファルリアやツォルン、シュプーンと過ごす時間が増えた。

「若者君、君って奴は全くもって興味深いな。ボルンウァッドを訪ねて来た時には乞食のような旅をしていた癖に、こんなちょっとした資産家の親御さんがいるんだからな。そして、ジァルヴァラン人の軍団を吹き飛ばしちまったあの恐ろしいばかりの力といい。いや、全く理解しかねる」

「嵐を呼ぶお子ちゃま、か。怖いねえ」

 シュプーンがお茶を啜るクリケの顔を舐めるように見つめながら、ツォルンの言葉に相づちを打った。

「僕もね、自分で何をしているんだか、よく分かっていないんだ。色々と分からない事だらけ。そうだ、猪の面の騎士は今頃何処で何をしているのかなあ?もう、あの頃が随分と昔の事に思えてしまう、嘘か幻だったように思えてしまうんだよね」

「クリケ。あなたはこれからずっとここでお母様と一緒に静かに暮らせば良いじゃないですか。もう、何も望まないのでしょう?」

 オルファルリアに窘められて、クリケはちょっとくすぐったそうに肩を竦ませた。そして、手に持っている熱い緑茶に鼻を寄せて目を瞑り、湯気で顔面を温めようとした。

「お爺さんやマイランはどうしているのかなあ。なんだか、無性に会いたいよ。オルファルリアは魔法使いなんだから、二人が何処で何をしているのかぐらい、知っているんでしょ?」

「知りませんねえ、そんな事。私としては、マイランとは王都の安宿で一緒に仕事をした後、別れたっきり。関心もありませんでしたからねえ。でも、あなたのお母様によれば、ここに立ち寄ったっていうじゃあ、ありませんか。何でも、破滅した神人カラ・コルムに会いに行く途中だとか。シュメロ師については、皆目見当もつきませんね。よくよく考えたら、あの人、何がしたくて、ああして生きているんでしょうね。神人の癖にいつまで経っても新人を虐めるなんて・・・。あ、洒落にもなってませんね」

「もういいよ、オルファルリア」

 クリケは、ふと、ゾラ・ファンダラの近くにあるお爺さんと暮らした掘建て小屋に戻ってみたくなった。ひょっとしたら、お爺さんはもう機嫌を直していつものように書庫に閉じこもり、何か書き物をしているかもしれない。「ああ、お帰り、クリケ」こともなげに、そんな風にクリケを迎えてくれるような気がしたのだ。こうして、お母さんが平凡に暮らしながら、彼が帰って来るのを待っていてくれたように。

 

2011年12月6日火曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第四十三話

 
 
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