近藤裕希のページ
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ウルフェンクの古城への帰還
ついに、クリケは母親がいるウルフェンクの古城へと戻って来た。ローランチェリーの森にある古城もまた、厳しい冬の情景の一ピースである。相も変わらず、石膏人間レオムキパトラが往来を行き交い、その表情に乏しい真っ白な顔面を見ると、クリケは余計に身体が冷える思いである。一行はクリケとオルファルリアが以前くぐり抜けた城門、城下町を通過し、程なくラライ・デュバルシーに謁見し、歓迎された。
クリケが見るところ、母は初めて出会った頃に比べて頬の血色が良かった。何だか、心の中の重石が一つ無くなったかのよう。クリケ自身も母と同じく数ヶ月前と比べて色々と吹っ切れたように思う。実際に再会してみると、何も心配する事など無かった。
「帰りました、母さん」
ラライ・デュバルシーは、オルファルリアから簡単な旅の経緯を聴きつつ、ごく自然に表情を綻ばせ、「大変でしたね、ゆっくりするのよ」とクリケを労った。
その後、特別な出来事も催しも無く、皆、それぞれが割り当てられた部屋に落ち着いた。クリケは以前のように亡き父の簡素な部屋で椅子に腰掛け、父の姿が描かれた額縁を眺めていた。そこに描かれた故フォルク・レード卿の姿は物思いに耽っているように左手を顎に当てていた。片方の目は何だか疲れたように瞼が下がり、もう片方の目は対照的に見る者を焼き焦がさんとせんばかりの意気・精力に満ちていた。
父が紅の外套を羽織った騎馬武者に貫かれる幻はもう見えなかった。そして、あの時に見えたように感じた父がクリケへ向けた微笑みも、彼に差し出そうとしたあの剣も、今のクリケにはもう見えなかった。
2011年12月3日土曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第四十話