近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

誰にだって来るもの

「やべえ、嵐が来る」

 王都が間近に迫った頃、シュプーンが禿げ上がった自分の頭を撫で擦りながら呻いた。

「ああ、嫉妬の嵐って奴だな」

 ツォルンが意地悪げに唇を歪め、クリケに笑いかけた。三人は寒波に身が竦み、下馬して悄然と歩いていた。王都ラァフはもう間近に迫っている。王都へ通ずる街道の幅も広くなり、行き交う人々の数も増えた。半年程前にクリケがやって来た頃と変わりはない。そして、多数に混じればクリケなど、取るに足らぬ、年端の行かぬ一人の青年に過ぎなかった。だから、クリケにはツォルンの言葉の意味がよく分からなかった。

「え、嫉妬の意味?若者君はウブだな。まあ、その内、分かるだろ。俺は厄介事には近寄らねえことにしてるんで、関わらねえ」

 ツォルンはそう言って背中を丸め、肩を震わせながら笑いを堪えた。シュプーンはそれを横目に睨みながら舌打ちした。

「馬鹿野郎。寒波の嵐だ。早いとこ、王都の門をくぐってしまわなけりゃ、少なくとも俺は凍え死んじまう」

「同じことだろうが」

 ツォルンは減らず口を叩いたが、意に介さず、シュプーンは自分の馬に飛び乗った。凍り付かないように人より大きめの手のひらで頭を覆いながら、そのまま駆け出した。二人も彼の後を追った。

 大方の旅人に紛れて三人が王都の門の内側に滑り込んで間もなく、大量の雪が混ざった大風が王都一帯に襲来し、輝光石が積み上げられた城壁にぶつかり、ドカンドカンと重厚な爆音を轟かせた。ツォルンがクリケに向かって何か喚いたが、全く聞き取れない。シュプーンが二人の肩を叩いて振り向かせ、街の内部に向かって進むよう身振り手振りで示した。

 三人は人混みを押し分けて街中に入り、シュプーンに導かれるまま何度か道を変えながら進んだ。中心部に近づくにつれて、建造物が古めかしい外観のものが増え、歩く人がまばらになり、三人は知らぬ間に抜き足差し足で歩いていた。

「ああ、ここだ。着いてみりゃ、あっという間だな」

 シュプーンが、高くて中を覗けない塀がずっと続く区画にある何の変哲も無い門の一つの前で立ち止まり、門にべったりと手のひらを密着させ、クリケに笑いかけた。

「こんな寂しいお住まいが世にも名高きシェルフルド学院なんだぜ。大したことねえだろ?若者君」

 そう言いながら、吹き出しそうになるのを見られまいと、ツォルンはクリケから顔を背けた。クリケは、ツォルンが何をそんなに可笑しく思うのかさっぱり分からず、ちょっと不機嫌になった。そんな二人をシュプーンが「行くぜ、お前たち」と促し、クリケ一行はシェルフルド学院の門を潜り抜けたのだった。

 

2011年12月29日木曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第六十六話

 
 
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