近藤裕希のページ
近藤裕希のページ
忘れ形見殿がかつて歩いた道の途中での諍い
「なあ、イバラの冠のじいさん。あんた、俺を何処へ連れて行こうとしているんだ?」
ミリャルドは、唐突に自分の前に現れたこの老人には何か考えがあるのだろうと思い、幾日もの間、黙って老人に従い歩き続けて来たが、もう堪忍袋の尾が切れた。
「俺は仕えるべき主君を探している途中なんだ。一刻の猶予も無いんだ。あんたが何をしようとして何処へ向かっているのかを教えてくれ。でなきゃ、俺はもうあんたにはついていけないよ」
イバラの冠の老人が立ち止まり、振り返った。そして、ミリャルドの風体を頭の天辺から足のつま先まで彼を食いちぎるような眼差しをぶつけた。ミリャルドに噛み付いた老人の視線は、やがて彼が握りしめるかつての主君の遺剣にまとわりついた。
「おい、若造。お前はいい歳こいて、まだ誰かに尻尾を振りたいのか?お前が崇める主君とやらは死んだ。お前が本当にしたいことがあるんなら、誰かを担ぐんじゃなくて、お前自身でやれ。わしは、大事な用事があって旅をしとる。わしにとって大事な用事だ。ひょっとしたら、お前にとっても意味のある用事かもしれんと思い、わしは気違いになりかけていたお前を拾った。まあ、別にいい。お前がわしをどう思おうが、わしはわしの道を行く。その道がお前にとって違うように感じるのなら、お前は自分が正しいと思う道を歩けば良いんだ。それだけの話だ」
老人はそうまくし立てるとミリャルドなどどうでもいいかのように再び歩き出した。すっかり面食らったミリャルドは、どうしたらいいものか分からなくなり、結局は老人を追い掛け、その後ろを歩いた。彼は、ただ知らぬ何かに漠然と憧れていただけで、自分が本当にしたい事をよくは分かっていなかったのだ。ミリャルドはその事にようやく気がつき、なにやらそんな浅はかな自分に切なさを覚えた。
2011年12月22日木曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第五十九話