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未だ満ちぬ夜に昇る月

 これまでに戦没したジャルヴァラン人の魂が白い湯気のように冬の夜空にゆらゆらと立ちのぼり、淡い火花を散らしながら拡散して行く様を、マイランはカラ・コルムの居城の一室から眺めている。意識を取り戻した堕落の神人カラ・コルムが、居城の高台に立ち、この妙な現象を生み出していた。

 カラ・コルムは夢中になって夜空に向かい、両手を扇ぎ続けている。全てが自分の思うように、想像するように流れて行く魂を全身で感じ、永年の苦痛の慰めとした。あるがままの様に己の身も委ね、それにより自由に広やかなる世界を回遊するのであった。

 マイランは、狂気に冒された老人に訪れた束の間の安らぎに心を寄り添わせている。なんだか嬉しくて仕方がなくなって、彼女は自分の空飛ぶユニコーンを呼び寄せ、カラ・コルムが創り出す世界に合わせ、彩るように鈴を鳴らしながら夜空をゆったりと巡った。

 彼女の翼を持つユニコーンはどんどんと空を翔昇り、やがてジャルヴァラン人の魂が織り成す白い雲を突き抜けて燦然と月や星々が輝く上空へと躍り出た。それを見て、彼女はもう幾日かで一年にただ一度だけ訪れる特別な満月の日がやって来る事を思い出した。

(そろそろ、今年のバカンスも終わりにしなきゃいけないな)

 マイランは、手に持つ鈴にそっと口づけして、カラ・コルムの居城へと放り投げた。鈴は、シャラシャラとその音を振り撒きながら、ジャルヴァラン人の魂の雲に紛れて消えた。そして、彼女はユニコーンを旋回させ、例年”月夜の夜会”が開催される果て無き山脈の峰を目指した。

 

2011年12月15日木曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第五十二話

 
 
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