近藤裕希のページ
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戻って来た剣
気付けば、クリケは元の丘の上の漆黒の台座の前にへたり込んでいた。そして、じっと自分の手元を見つめていた。彼の手には、微妙に湾曲した地獄の業火を模した図柄が刻まれた剣が握られていた。暗闇の中で倒れていた騎士の胸に突き刺さっていた剣を、彼は知らぬうちに引き抜き、握りしめていたのだ。
「おおう、君はやはり私が推測した通りの人間だ。君は戦わずにはおられない性の持ち主だ。魂に、それが刻み込まれているのだ」
「どうして僕はこうなんだ。ただ、静かに穏やかに暮らしたいだけなのに、何故、軽率な思いつきを実行してしまうんだろう。知りたくもなかった事を知って、忘れたいのに忘れられなくなってしまう」
ヴェイリン卿はクリケが己の愚かさへの怒りに顔を紅潮させ、剣を固く握りしめる様を見て愉悦に浸った。そして、そっとクリケに近づき、彼の耳元に口を寄せて囁いた。
「英雄になれ、クリケ・レード君。君の父さんのように、君が間違っていると思うものを打ち負かし、人々を導くがいい」
クリケの脳裏に亡き父フォルク卿の姿と、暗闇の中に倒れていた哀れな騎士の姿が踊った。(この馬鹿たれが!)そう彼を罵倒したのは、誰だったか。剣の使徒であることを放棄し、故郷に戻ったクリケの身に降り掛かった運命は、彼に安息の日々を与えてはくれないようだった。
2011年12月10日土曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第四十七話