近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

空しき償い

 面白い、面白くない、面白い。

「面白くない。駄目だ、こりゃ。私ったらどうしちゃったんだろう」

 大空を疾駆するユニコーンの馬車の車窓を開け放し、窓の枠に肘をつきながらマイランは独り言を呟いた。秋風がピュウピュウと彼女の耳元をかすめ、耳たぶが冷気でジンジンするが、どうしても室内でぬくぬくしてはおられない気持ちでいる。

「どうしちゃったんだろう、か。私、ここんとこ、おんなじセリフばっかり呟いてるわね」

 堕落した神人カラ・コルムは今でも私と会ってくれるかしら。マイランは何だか色々と自信が持てなくなっていた。

(なんで、昔は私ってあんなに高慢ちきだったんだろう)

 マイランはほんの数ヶ月前まで高慢ちきだった癖に、そうだったのは大昔の事で、今は自分は気だての良い貴婦人だとあっけらかんと思っていた。

「やっぱり私ったら年甲斐もなく恋をしたのかしらねえ」

 マイランの頭の中にこれまでに出会った様々な男性の姿が過った。

(あいつもこいつもいい感じだったけど、妙に選び損ねて来ちゃったのよね。私って憶病なのかな、優柔不断ってやつかな?)

 マイランは自然とクリケの困った時の表情を思い出し、知らず知らずの内にニヤニヤした。しかし、急にクリケのあどけない顔が年老いた醜い豚顔の男に変貌し、マイランの背筋に冷たい汗が流れた。

「馬鹿、なんでいっつも良い時にあんな奴の事を思い出すのよ」

(もういいでしょ、私はあなたからはいい加減解放されたいの。生真面目なだけのあなたより、我欲に溺れてすすり泣いたりプッツンして高笑いするキチガイなおじ様の方がずっと私の好みなのよ)

 マイランの目元から端整な頬にちょっぴりしょっぱい水分が溢れ、それは彼女のいる上空の冷たい風に飛ばされ、彼女の遥か後方で細かい氷粒になり、広やかな虚空に霧のように散って消えた。

 

2011年11月8日火曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第十五話

 
 
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