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混沌たる王都にて

 かつて無垢の王がリュネイル大王国建国の祝いとして、現世に残った最後の神人にしてリュネイル大王国に付託されし預言者のシュメロより授けられた乳白色の玉座は、人々の栄光と理想を象徴する王都ラァフの中心に位置する高台にそびえる尖塔の心臓部に鎮座している。先の王リスト三世が崩御してから既に一月あまりが過ぎたが、以来、玉座に触れた者は一人としていない。

 今、かつてない混乱の波が王座の周囲に打ち寄せていた。本来ならば、リスト三世の崩御により、無垢の王が建国の時に定めた手続きに従い、王位継承権第一位保持者ガルバリアス・ファラソ公が、リュネイル大王国の王として即位するべきであった。しかし、リスト三世崩御の前後にジャルヴァラン人との戦争が勃発し、ファラソ公はリスト三世に代わって大王国軍の指揮をとるべく、大王国南部の要衝アウォルフィドへ向かい、慣れぬ行軍の最中、原因不明の急な病にてリスト三世と相前後して病没した。 大王国の王典によれば、 王は、時の王あるいは預言者シュメロによる直接の指名に依らねばならぬ。この場合、王位継承権第二位保持者が当面の政を治めながら王たる資格を持つ者を預言者シュメロの言葉に従い、探し出し、王位に就けねばならぬ。しかし、 前第二位保持者であったクリケ・レードの父フォルク・レード公が引き起こした悲劇的な内乱により、 第二位者として選ばれたリャンメロ・ヴィラウドはまだ弱冠13歳に過ぎぬ。誰も、リュネイル大王国を侵害する者など居ない、そう信じて疑わず、互いの政治的バランスの配慮から2年間に渡る議論と選考の末、当時赤子だった無益無害のリャンメロ少年が第二位者となったのである。当然、彼に大王国を統治する力量があろうはずもなく、預言者シュメロもここ十数年というもの王都ラァフに姿を現すことはなく、現在に至っている。

 人々は自らの権利の大部分を放棄し、他人にすがることにより暮らしを保持し、翻ってみれば、それは大王国の体制そのものであった。そうであるが故に、上記のように統治機構が麻痺してしまった現在、誰もが今後どうして国家を運営して行けば良いのか分からなくなり、いつしか、国家の方針を決定する最高機関として機能していた宮廷は政務を放棄し、荘厳な王間には誰一人立ち寄らなくなってしまっていた。

 そして、広き世界にて、特に人々の行く末を案ずる世捨て人の如き者たちが集まる魔法使いのサロンにてあれこれと噂が囁かれる一方ですっかりと寂れた宮廷の王間入り口に、一人の男が姿を現した。彼は、神秘的な紋様が刻まれた銀の甲冑に身を固め、深紅の外套を纏っていた。

「開けよ」

 彼が、宮廷の入り口の守衛に命令した。雷鳴轟くが如き声に怯んだのか、男のいでたちに遠慮したのか、入り口を警備していた三人の守衛は何も言わずに大扉を開け、男を通した。

 男は石床を砕かんばかりに、しかし、地に根を下ろすようなしっかりとした足取りで歩を進め、やがて玉座の前に立った。

「・・・俺が、王になる。俺しか、おらぬ」

 男は兜を脱ぎ、玉座に跪き、押し殺した低い声でそう吐き捨てると、大王国建国以来、支配者の誰もが気にも留めなかった神、玉座に宿る大いなる意思に深々と祈りを捧げた。



第一章 あらゆるものにして唯一なるものの帰還 終

 

2011年11月6日日曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第十三話

 
 
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