近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

雨降りのお知らせ

 クリケたちがマインを出立してから数日が過ぎた。道中、何事もなく、ただ冬の寒さが身に凍みるようになった。

「おい、もうすぐ雨が降り出すぜ」

 一人だけ徒歩だが、先頭を歩くシュプーンが西空の雲行きに目を向け、舌をチロチロさせながら立ち止まった。

「本当かよ。やだねえ、こんな気分が沈む寒い日に雨の追い打ちだなんてな!」

 ツォルンが列の最後尾から、陰気な雰囲気を振り払おうとしてか、ダミ声を張り上げた。オルファルリアはあまり反応を示さず、黙って馬を止め、ハルヴァーナのある北の方角を眺めていた。クリケも寒さに身が縮んでしまい、ツォルンに軽口を叩こうと口を開いたが、ウゥーと呻いただけに終わった。一行は長雨になるというシュプーンの忠告に従い、雨を避ける為に次の宿場町で早々と一泊することにした。どうせ急ぐ旅ではない。

 クリケたちはすぐにありきたりな宿場町に到着し、適当な宿を見繕って二階の一室を借りた。ツォルンとシュプーンは互いになるべく離れた場所にあるベッドを使い、ゴロンと横になった。オルファルリアは何がそんなに楽しいのか相も変わらず便利石板に銀製のペンで何かを書き込んでいた。クリケは他にする事がないので、背もたれのない小椅子を窓際に運び、窓の枠に肘をついて外の景色を眺めていた。

 雨雲にくすんだ空。人気のない表通り。街道沿いの樹木も紅葉を過ぎ、黒い枝がむき出しになり、木々の足下は枯れ葉で埋もれている。時折、冷たい冬の風が吹き、枯れ葉がジャラジャラと音を立てて転がって行く。

 どうしようもなく、気の塞がる一日。どうしちゃったんだろうね。クリケは心の中で呟いた。もう、彼の母親が住まうウルフェンクの古城とローランチェリーの森はすぐそこにまで迫っている。

(俺、母さんにどんな顔して会えばいいのかな?)

 なんだか、バツが悪い。クリケは垂れて来る鼻水を啜りながら、そんなことを考えていた。色々と身勝手に各地を放浪した挙げ句、こうして我が家に帰るのだ。ウルフェンクはクリケが暮らして来た場所ではないけれど、彼の母親の住まいなのだから、まあ、我が家だ。

 雨が降り出した。クリケたちがいる部屋のすぐ上にある薄い板の屋根に雨粒が当たり、バタバタと音を立てた。宿の向かいにある家のベランダに主婦らしき女が慌てたように生乾きの洗濯物を仕舞いに飛び出して来た。

「ねえ、クリケ。寒いから窓を閉めて下さいよ」

 オルファルリアが突然しゃべったのでクリケはびっくりして振り返った。オルファルリアは寒そうにローブの首元を押さえながら、クリケを睨んでいた。気の利かないクリケにちょっと苛々しているようだった。クリケは決まり悪さにちょっと頬を紅く染めつつ、窓を閉じた。

 

2011年11月29日火曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第三十六話

 
 
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