近藤裕希のページ
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満たされぬもの
マイン侯ユールリアムはずっと恩師オルファルリアに出会うのを心待ちにしていた。彼が奇妙な一行を連れて来た事にはちょっと驚いたものの、恩師の友人ということで歓待することにした。
クリケ一行が到着した明くる日、オルファルリアはクリケたちがまだ居眠っている間にそっと客室を一人で抜け出し、ユールリアムの執務室を訪ねた。
「お待ちしておりましたよ、先生」
オルファルリアが入室すると、ユールリアムは母犬を見つけた子犬のようにオルファルリアのもとへ駆け寄り、その手を取った。オルファルリアは尊大かつ慎重なユールリアムに似つかわしくない行動だと思った。
二人は暫くシェルフィルド学院時代の思い出話をして打ち解け、しばらく沈黙があった後、ユールリアムはマインとハビスラムド家の置かれている現状を語った。
「で、あなたは何を守りたいのです?」
オルファルリアはユールリアムの打ち明け話を聞き、ちょっと困ったように微笑んだ。そして、ユールリアムの表情が曇った。
「先生、私にも分からないのです。少し前まで何もかもが順調でした。何の不足もありませんでした。しかし、私の周りには物も人も溢れているというのに、寂しいのです。不安なのです。父母が亡くなった時もこんな感情を抱きはしませんでした。只の軽薄で無知な男だと思っていた弟が、本当に正真正銘の愚行を働き、このようにして誇りあるハビスラムド家に泥を塗ろうとは。」
「ほほう、誇りあるハビスラムド家」
「お笑いあるな、先生。まさに、その通りではありませんか。ハビスラムド家が大王国の経済を支えているからこそ、皆がそれなりの暮らしを出来ているのですよ。そして、その当主は私。私はそれを誇りに思っておるのです。私は辛い決断でも下さねばなりません」
「そうですか。まあ、それはあなたがお決めになることですからね。そうそう、今回あなたを訪ねたのは魔法使いのサロンで来月に催す”月夜の夜会”にあなたを招待することが決まったので、それをお伝えする為なのです」
「私が魔法使いの宴に?そのような名誉を頂けるのですか?」
「ええ、当日の晩に迎えの者を寄越します。来月の満月の夜ですよ、お忘れなきよう」
オルファルリアはそう告げて軽やかに笑うとユールリアムの執務室を辞した。そして、昼前にはクリケ一行は北のハルヴァーナへ向けて旅立って行った。
2011年11月28日月曜日
呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解
第三十五話