近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

オルクレス・アルゲイ卿の決意

「ついに、この時が来たか」

 ハルヴァーナの監督官オルクレス・アルゲイ卿は、王都ラァフからの命令書を握りしめ、執務室の窓からハルヴァーナの街並を見下ろしていた。もう、とっぷりと日は落ち、家々から黄色いランプの明かりが街を縫う道々をほんのりと照らしている。

 結局、今年の収穫は昨年の六割程度であった。飢えて冬が越せぬ程ではない。だが、確実に王府に税は納められぬ。そして、来年以降の収穫についても見通しは暗い。何週間か前、アルゲイ卿はそうした内容の報告書を宮廷に提出した。その回答が今、こうして彼の手許にある。

『今年は予期せぬジャルヴァラン人との戦争があった。その痛みをハルヴァーナも分かち合わねばならぬ。天災はアルゲイ卿の責めに帰す事由ではないが、ハルヴァーナの者も生活の一部を犠牲にし、大王国の為に戦った者たちに報いねばならぬ。』

 そういう内容であった。アルゲイ卿は宮廷から要求された具体的な税の分量を確認し、息を飲んだ。宮廷の要求全てに従えば、来年の冬には確実に犠牲になる者が出る。来年が余程の豊作にならぬ限りは。しかし、昨今の天候から考えて、そのような可能性は絶無に近い。

 この命令書は握り潰すしかない。宮廷の召還命令もお茶に濁し、なんとか時間を稼ぎ、ハルヴァーナが立ち行くよう手立てを講じねばならぬ。その為には深紅の薔薇騎士団団長への忠誠も、その上級騎士としての名誉も捨てねばならぬ。忠誠や名誉では飯は食えぬ。

 統治者であるが故に、いや、良心を残す一人の人間として、俺は忠誠も名誉も捨てるのだ。

 

2011年11月27日日曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第三十四話

 
 
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