近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

夢の中で

 クリケは、春のうららかな日和の中、自分と同じくらいの年格好の女の子と手を繋いでブラブラと道を歩いていた。右手にはローランチェリーの森、左手にはハルヴァーナの豊かな農園が広がっている。彼女と握り合った手が少し汗ばんでいた。

「やあ、お二人さん。今日も仲が良いんだね」

 二人が道の途中にある藤棚の休憩所に寄ると、入り口にある白いペンキで塗られた当番用の椅子に腰を下ろしていた三十過ぎの年格好をした騎士が二人を見上げて微笑んだ。クリケも騎士にニッコリと笑みを返して、藤棚の下にあるベンチに彼女と並んで腰掛けた。

 彼女がクリケに何かを話しかけた。しかし、クリケは彼女が何を話しているのか聴き取れなかった。クリケは彼女が本当に自分の傍らにいるのかどうか、それすら心許ない気持ちになった。彼女はクリケのおぼつかない表情を見て、ちょっと困ったように笑った。

 気がつけば、この藤棚で休憩している人々は皆、クリケを微笑みながら見守っていた。そして、クリケはまるで自分が儚い幻であるような、そんな気がした。

 自分は夢を見ているのだ。クリケは不意に気がついた。思えば、今は春なんかじゃない。冷たい風が吹き始めた晩秋なのだ。でも、この心地よい温もりは何だろう?

「ん、どうしましたか?」

 クリケは、白を基調としたデザインの二十畳くらいの広やかな一室の暖炉の側でゆったりとした椅子に腰掛け、うつらうつらしていたようだった。同じく暖炉にあたりながら石板に何かを書き込んでいたオルファルリアが、クリケが目を覚ましたのに気付き、声をかけた。

 クリケは思い出した。マインの雑踏をあちこち彷徨った後、オルファルリアの希望でマインの統治者ユールリアム・ハビスラムドの邸宅を訪問することになったのだ。一行はユールリアムに歓迎され、しばらく歓談した後、こうして客室をあてがわれのんびりすることとなったのだ。

 何もかもが夢のよう。

 剣の使徒だった頃の様々な体験が、あれは本当に起こった事なのかどうか。クリケはそれが分からなくなるくらい、今、穏やかな旅の暮らしをしていた。

 

2011年11月25日金曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第三十二話

 
 
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