近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

取るに足らぬ灯火として

 世の中には色々と侭ならぬ問題がある。特に、自分自身のすぐ身近なところにそれはあるようだ。世界の成り行きを心配しても、一番困るのは、いつだって自分の身の振り方。クリケは今日の野営場所であるクロノスの大平原の何処かで毛布に包まり、ちょっとした熱っぽさにうとうとしながら、そんなことをつらつらと思っていた。

 いつだか、遠い昔。そう、クリケが生まれるずっと昔でいて、何故だかクリケの記憶にある晩夏の平原の夜の篝火。悲しみと思いやりに満ちた表情を浮かべた精霊ジャヴ・ドューたちがクリケを囲んでいた。あの情景は何なのだろう。何だか、クリケ自身が悲劇のヒーローになったかのようなあの眼差し。

 これから先、十年の間に自分の身に何が起こるのだろうか?

(いや、僕は何をしようとするのか、それを僕自身で決めなきゃいけないんだ)

 クリケは寝返りを打った。腰のあたりにゴツゴツとした小石の感触がする。たき火の向こう側でオルファルリアがまだ石板に何かを書き込んでいるのが見えた。一瞬、話しかけようと思ったが、彼の真剣な様子に気圧され、そうする気力も削がれた。

 いつまで経っても自分は大人になれないんだな、クリケはそんな事をちょっと可笑しみを感じつつ思った。いつぞや、クリケのおじいさんも言っていた。「いつになったら自分は一人前になれるんだろう、なれるんだろうって考えているうちにこんなくそ老人になっちまったがなあ」

(馬鹿々々しいな)

 クリケはもう一度寝返りを打った。湿った草の匂いがする。虫の鳴き声がヒョロヒョロと聞こえていた。無気力な世界の終局図を夢で見ていた頃を思い出した。あの頃も虫の鳴き声を聞いて本当の世界が失われてはいない事を確かめて安心していたなって。

 あれだけ欲しかった剣を手に入れ、何かと戦おうとし、今は剣を自ら手放した。ちょっと、腰元が心細い。でも、何だかちょっと安心、ちょっと幸せ。いつまで、このうたた寝の状態が続くのやら分からないけれど、今だけでもこうして幸せな気分に浸っていたい。クリケは毛布を深くかぶり直して今夜も穏やかな眠りについたのだった。

 

2011年11月1日火曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第八話

 
 
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