近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

風に混じる冬の匂い

 クリケたちがシュプーン・スノーケンと合流してから数日が過ぎた。一行は、シュプーンがトンテンカラリンと太鼓を打ち鳴らすリズムに合わせて、ご機嫌な旅を続けていた。途中、旅宿があればそこに宿泊し、無ければ近くの農家に宿を求めた。その都度、オルファルリアが袖の下からごそごそと銀貨を何枚か取り出しては支払いをした。

 野営していた頃を思えば、快適な旅路となった昨今だが、クリケは快適な暮らしというものに、ちょっとした違和感を覚えるようになっていた。どことなく、居心地が悪い。一人で乞食のように放浪しながらクロノス大平原を目指していた頃は会う人々は大抵気兼ねなくクリケに話しかけ、色々と親切にしてくれた。クリケもそうした中で無一文ながらのんびりとした旅をしていた。現ハルヴァーナ監督官オルクレス・アルゲイ卿と出会った頃の話だ。

 今は違う。妙に宿の主人も給仕も宿泊客も皆どこか互いに猜疑心を滲ませている。クリケの気のせいかもしれない。だが、どうしても居心地の悪さを感じてしまう。よくよく考えてみると、食事にしても野営している時分にはオルファルリアが袖の下から取り出す干し肉を焚き火で炙って食し、林檎に齧りつくだけだったが、宿では料理を綺麗に盛りつけた皿を給仕女がよそよそしくクリケの前に置いて行く。クリケがお爺さんとローランチェリーの森の掘建て小屋で暮らしていた頃はあんまりそういうことに気を使わなかった。ウルフェンクの古城で母と一夜限りの晩餐に付き合った際、そういえばこんな感じだった。あの頃は、色々と悩みや不安があり過ぎてこういう事に気付かなかった。

 クリケは天井の無い吹きっさらしの空き地で野営したいと日に日に思うようになった。文化的な生活というものは、自分には合わない。ある時、オルファルリアたちにそういう事を話してみた。オルファルリアは肩を竦め、「煩わしいですかね、私はこういうの楽しくて仕方が無いんですがね」と、ワイングラスを揺らしながら朗らかに笑った。ツォルンは「いいじゃねえか、そんなこと」と鼻を鳴らしつつ、給仕女の尻を物欲しそうに眺めるだけだった。シュプーンだけがクリケに「分かるぜ、お前のその気持ち。やっぱ、一人が一番気楽だよなあ」と共感の意を示してくれた。

 そうした日々が続き、次第に身が縮むような冷たい風が穏やかな秋の日々に混じるようになった。そして、農夫たちによる小麦の収穫も大方が終わり、藁束が焼かれて灰になり、黒々とした地面がむき出しになった、そのような時期にクリケ一行は港湾都市マインへと辿り着いたのであった。

 

2011年11月18日金曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第二十五話

 
 
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