近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

過去の夢から醒めぬ青年

 ミリャルド青年がクロノス大平原に踏み入ってから、もう三日が過ぎた。彼がこの荒れ果てた大平原でクリケ一行を探し当てるのに与えられた時間は一週間である。彼が同志の会より分け与えられた食糧が尽きる期限がクリケを探せる時間である。オルファルリアは「明星アルゼクスの輝く方向へ進みなさい。そうすれば、やがてあなたは本当の主君と出会うことでしょう」と初めて出会った時、彼に告げた。

 あれから十五年の月日が過ぎた。時にはミリャルドはオルファルリアの言葉が信じられなくなり、自らの道を模索した。しかし、未だにフォルク公の忘れ形見を見つけだせずにいる。今は、オルファルリアの言葉を信じる以外に彼が辿れる道はない。だから、彼は星の見えない昼間に眠り、寒気が漂い出した夜の大平原を歩き続けて来た。

 四日目の夜、明星を見失うまいと夜空ばかりを熱心に見上げながら歩いている途中、何かぐにゃっとした冷たいものに躓いて無様に転んだ。明星を見失いやしないか、いや、不意の転倒で受け身損なって、岩石の混じった地面に顔面と胸部を殴打した際の鈍い痛みに腹立ちを覚えた。そういう怒りに半ば我を忘れながら足元に横たわる彼を躓かせたものを睨みつけると、それは大きな野犬の死骸だった。おそらく大平原の寒気と飢えによりここで力尽きたのであろう。足で野犬の死骸を遠くに押しやろうとしたとき、再び生気のないぐにゃりとした感触にミリャルドは思わず身を震わせた。

 明星を暗灰色の雲が覆い、闇夜となった。

 彼は一人前の大人になったつもりでいた。しかし、闇の支配する寒い夜に、このだだっ広い荒野のど真ん中にただ一人取り残されているこの現実に気付き、愕然とした。忘れ形見殿の支柱となる?俺は、たった一匹のままこのように惨めに凍死した野犬のように惨たらしく朽ち果てるだけではないのか。

 彼は唐突に発狂した。己の眼前に繰り広げられる暗澹たる将来像に怯え、意味を判別できない言葉をしばらく喚き散らしながら、野犬の死骸から逃れようと走り出した。そして、程なく再び足を絡ませて転び、今の己の境遇に絶望し、かつての主君が遺した剣を固く握りしめ、冷たく湿った地面に顔を押し付けたまま、闇夜の中でむせび泣いた。

 

2011年11月14日月曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第二十一話

 
 
Made on a Mac
前へ
 
次へ