近藤裕希のページ

 
 
 
 
 

シュプーン・スノーケン

「ちくしょう、てめえはなんだって動かなくなっちまったんだ」

 クロノスの大平原の一角にぽっつりと建っているティベスタリオンの天候観測所の屋上にはドーム型の大型天候観測器が設置されている。その中央処理室で計器をぶっ叩いているのは二枚舌を持つ男、シュプーン・スノーケンである。ここ数日というもの、ティベスタリオン中の観測気球から送られてくる情報が全て大雨どしゃ降りを表示するのだ。だが、少なくとも天候観測所があるこの辺り一帯は小雨が降る気配すらない。何らかの不具合が天候観測器に発生したとしか考えようがないのだ。

 シュプーン・スノーケンは、ある意味、孤独だった。彼に始まりも終わりもない。いつだって陽気に鼻歌を歌いながら天候観測器のメンテナンスをし、定期的に魔法の石板でティベスタリオン中の気候についての情報を発信している。人との接触は金輪際しない。彼はそういうのが面倒くさいのだ。馬鹿にもしている。自分一人だけでご機嫌でいられるこの満ち足りた生活の他に何を求めるというのだ!

「・・・」

シュプーン・スノーケンは、ふと、手元の石板に自分宛のメッセージが書き込まれている事に気付いた。送り主は、オルファルリア、とある。

「なんだ、あいつ。まるっきり音沙汰がないと思っていりゃ、こんなときに挨拶文なんぞ送って来やがって。『時節柄、何かと雨天の多いこの頃ですが、いかがお過ごしデスか』・・・こいつ、俺を舐めてんのか?」

シュプーン・スノーケンはしばらくむっつりと文面を読んでいたが、やがて静かに立ち上がり、石板をテーブルに置くと旅支度を始めた。

「まぁた、一波乱あるってか。まさか、この俺が天職ほったらかして副業に駆り出されるなんてことがもう一度あるなんてなあ。神様も気まぐれなこった」

全てが丸く収まったかに見えた世間に再び嵐の予兆。自分は何故こんな人生を送っているのだろうか。何もかもが満ち足りた生活の中で稀に陥るメランコリックな気分がオルファルリアからのメッセージを読んだ時に彼の心にじわりじわりと滲み出して来た。

 二度と戻ることはないと思っていた古巣に、彼は帰る決心をしたのだ。

 

2011年10月31日月曜日

呪いと奇蹟と祝福と 第二篇:大王国の瓦解

第七話

 
 
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