(アップデート : 2009年03月29日)
(アップデート : 2009年03月29日)

















文責:山脇正俊
『近自然(工)学(環境と豊かさの両立原則)』提唱・研究
スイス近自然学研究所代表
北海道工業大学客員教授
SADO専門学校 ユニバーサルアドバイザー
スイス連邦工科大学・チューリッヒ州立総合大学講師:武道
環境・オーディオ コンサルティング
ご意見、ご質問はE-mailでお願いします。

ドイツの筆記用具専門誌「スクリプトゥム/Scriptum」で集めたウェブサイト
万年筆メーカー
•AURORA (www.signo-pbs.de)
•CARAN D'ACHE (www.carandache.ch) : スイス・カランダッシュ社
•GRAF VON FABER-CASTELL (www.faber-castell.de)
•EDDING (www.edding.de)
•HYSEK (www.hysek.com)
•LAMY (www.lamy.de)
•LEITZ (www.leitz.de)
•NESPEN (www.nespen.de)
•PELIKAN (www.pelikan.de)
•PILOT (www.pilotpen.de) : 日本のパイロット
•RECIFE (www.recife.fr)
•ROTRING (www.rotring.de)
•SENSA (www.sensa.com)
•TOMBOW (www.tomboweurope.de) : 日本のトンボ
万年筆ディーラー
(新品やアンティック万年筆を注文でき、在庫がなければ探してくれる)
•MARTINI (www.home.t-online.de/home/0220485509-0001)
E-mail: Regina.Martini@t-online.de
•SCRIPTION (www.scription.de) (E-mail: info@scription.de)
万年筆専門誌(ドイツ)…残念ながら廃刊となった
•SCRIPTUM (E-mail: scriptum@ebnerverlag.de)
コンピューターとワープロソフトに慣れてしまうと、筆記用具を使わなくなる。だからこそ逆に、万年筆や毛筆で手紙を書いたり文字を書く素晴らしさを新鮮に評価でき愉しめるようになったとも言えよう。
便利な現代社会において、コンピューターなどハイテクの利便性なしでは、日常生活は立ち行かない。しかし我々が直接触れるインターフェイスは、万年筆などのローテクが心地よい。(実は、万年筆の内部にはハイテクが駆使されているのだが…)
万年筆は時計と違い、特別なアンティック物に手を出さない限り、経済的にはそれほど大きな危険はない。思い存分おやりなさい!
ごく個人的な、万年筆の素晴らしさ、愉しみ方を伝授する。(生意気な言い方だ!)
時代が変り、価値観が大きく変わった。かつての『重厚長大』から『軽薄短小』が今はカッコイイ。でかくて重い携帯やiPodを欲しがるバカ者はいない。オーディオ装置、それもスピーカー・システムはでかくて重くないと良い音がしない。だから完全に時代に逆行する。オーディオ・マニアは完全な絶滅危惧種だ。しかし、腕時計や万年筆ならなんとか生き延びることができそうだ。
道楽(趣味、ホビーという表現はなにやら薄っぺらい気がするが…)というからにはそれなりの厳しさも当然ある。「いつでも、どこでも、だれにでも」というポテトチップスみたいなものは道楽にはならない。(ポテトチップスはそれなりに深いのだか…)難しく深みがあるからこそ愉悦も大きいのである。勉強し、練習し、失敗し、考え、そして愉しむ過程を通して、人生が豊かになり、道楽が我々を高めてくれるのだ。道楽とは「道を楽しむ」と書く(「道を極める」と極道となるのか?)。道とは「過程」であり「人生」そのもののことだと思う。
万年筆の愉しさは、「見る」と「書く」に大別できよう。素晴らしい万年筆を店頭で見たり、自分のコレクションのを眺めるのは愉しい。万年筆で実際に文字を書くのは、また別の愉しみとそして厳しさがある。
投資や投機の対象にしたり、売買して儲けようというのは道楽ではない。時計にはこの傾向が強い。その意味では万年筆の方が純粋かも知れない。
万年筆の愉しみに『見る』と『書く』があるように、選び方にも『見る』と『書く』がある。
まず、できるだけ沢山見よう
まずできるだけ沢山の万年筆を店頭や雑誌で沢山見ること。
初めは皆同じように見えるはずだ。ここで止めてはいけない。さらに見続けていると、次第にそれぞれの個性が見分けられるようになる。
好きな物とそうでもない物とが自ずから分かれる。見るだけで心躍るものが出てくるはずだ。これで第一関門を突破。
次は、好みの書き味を見付けること。色々な万年筆があり、同じモデルでも様々なペン先の種類があり、さらに同じペン先(ニブと言う)なのに個体差がまたある。何が何だか分からなくなる。これが第二関門。
試し書き
第二関門の突破法は、まず店頭で沢山書いてみること。
ここでの要点は…
デザイン(材質、形、色)
シャフトの太さ
シャフトの長さ
重量とバランス
ペン先の太さ
ペン先のカット角度
ペン先の柔らかさ
ペン先のすべり具合
インクの流れ具合
インク・タンクの容量
シリンダー式かカートリッジ式か
インクの色
「デザイン」は見た目でもあるが、実は「材質、形、色」は書き味にも関係してくる。心理的にも重要な要素だ。
「シャフトの太さ」は、一般的には、手の大きい人は太めを、小さい人は細めを選ぶ。男性は太めを、女性は細めを。箸の選択と似ているかもしれない。沢山書く物書きは太めを選ぶ傾向があり、これはシャフトが太いと手に不要な力が入らないためだ。例えば、私には太いモンブラン149 がフィットするが、スイス人の家内は同グランド(日本では146)を愛用している。しかし、女性が太めを使用しても一向に構わないし、その逆も可。鉛筆やボールペンなどは元々細いものだ。また、机上で使うのか、胸ポケットやハンドバッグへ入れて持ち運ぶのかでも、太さに対する要求は変わる。また、物書きなど沢山書く人や太字の好きな人はインク・タンクの大きな太めのシャフトが良い。

◆ドイツ・モンブラン社のマイスター・シュトゥック(マスター・ピース)・ファミリー5モデル
左から、149、グランド(日本では146)、ショパン、クラシック、モーツァルトの各モデルで、自分の手と目的に合ったシャフトの太さを選べる。現在は、グランド・トラベラーという、やや小型でカートリッジ式モデルがある。
「シャフトの長さ」は、短いと持ち運びにコンパクトで便利だが、書く時にキャップをシャフトに挿さないと持ちづらい。キャップを挿して使うことを前提としたデザインもある。
「重量とバランス」は、キャップをシャフト上端(ペン先の反対側)に挿した場合と外した場合で大きく異なる。見た目は付けた方が格段に良いが、頭が重くなりやすい。大きな手の人は、短いシャフトの場合、キャップなしでは書きにくい。また、書く際にシャフトのどこ(上か下か)を握るかでもバランスが変わる。
「ペン先の太さ」「ペン先のカット角度」は、細字や太字の好みばかりではなく、万年筆の持ち方の癖も関係する。ペン先が真直ぐに(と言っても丸みを帯びているが…)カットされているものと、斜めにカットされているものがある。本来、斜めカットは幅広の効果を出すもので、実際に字を書くと横線と縦線の太さが大きく異なる。つまり味のある書体になる。斜めの場合は右利き用と左利き用とがある。
斜めカットは、味のある字体を実現するが、紙によっては引っ掛かりやすいので要注意。斜めカットで太字用ペン先では、和紙にはほとんど使えない。

◆ペン先の太さとカット角度
ストレート・カット5種、スラント・カット3種。これに左利き用スラント・カット3種が加わる。
メーカーによっては、サイン専用の超極太斜めカットO3Bを用意する。
「ペン先の柔らかさ」は、一般的に筆圧の高低(強弱)で決める。筆圧の高い人は柔らか過ぎるペン先は使えない。先が開き過ぎてインクが流れないためだ。筆圧の低い人は固いペン先でも柔らかいペン先でも問題なく使える。 インクが流れる範囲であれば、柔らかいペン先は力の入れ加減によって字や線の太さに変化が生まれ味メリハリが出る。ニブ先端には固く滑りを良くするロジウムやルテニウム・ポイントが付いているので、ペン先がスチール製か純金製かは滑りやすさには直接関係しない。一般的には、スチールより18金、18金より24金の方が柔らかいと思われがちだが、金のペン先がスチールのそれより柔らかいとは限らない。固い金ペンも、柔らかいスチール・ペンもある。つまり、書き味は試してみなければ分からないのだ。

◆様々なインク瓶:インク瓶にも様々なノウハウがある
各社から種々のインクが発売されている。万年筆メーカーは自社のインクを推薦するが、混ぜない限りどの会社のインクを使用しても問題ない。沢山ペンを所有する場合、インクは一社に決めることをお勧めする。
黒インクには要注意。固形分(カーボン)が多く、目詰まりしやすい上、一旦乾燥してしまうと、洗浄が一苦労。
モンブランのインク瓶(ハイヒール靴のような形状)にはくびれがあり、残量が少なくなっても確実に吸い上げることができる配慮がある。インク瓶のインクは最後の一滴までは使い切れないものなのだ。
吸い切れない残りのインクは、よほど古くない限り、新しいインク瓶へつぎ足しても問題ない。
「ペン先のすべり具合」は、色々な紙で試す。販売店には表面の滑らかな紙を置いてあるので、これで引っ掛かりを感ずるようでは話にならない。少々引っ掛かり感があっても、エージングで少々滑らかになっていくが、限度がある。最初から滑らかなのを選ぼう。
「インクの流れ具合」は、特に、太字用のペン先で大きな字を速く書くほど重要。インクのかすれが出るようなら流れ不足。これは故障というより、調整の問題。一般的には中位にしてある。出過ぎるとインク・タンクがすぐに空になり、また字が乾きにくい。
「インク・タンクの容量」は、沢山書く人や太字が好みの人にはとても重要。
「シリンダー式かカートリッジ式か」は、3つのポイントがある。
第一は、インク容量で、シリンダー式(タンク式、ポンプ式)は一般的に大容量。沢山書く人、太字を好む人にはカートリッジ式はミスチョイス。
第二は、移動性。出先でインク切れした時、タンク式ではほとんどお手上げ。インク瓶まで持ち歩く人はまれだから。その点、カートリッジはいくつも持ち運べる。
第三は、気圧の低い飛行機。タンク式のインクを全部抜いて搭乗するのは面倒。カートリッジ式ならただ引き抜くだけで良い。
「インクの色」は、好みが一つ。もう一つ忘れてはならないのが、インクの流れ。黒は固形成分のカーボン(黒煙)を多く含むので、流れが悪い。目詰まりしやすく、頻繁なクリーニングが必要。
試し書きの注意点
直線、らせん、丸などの図形を書く人が多いが、万年筆をスケッチ画に使うわけではないのだ。実際の字を書くことを忘れてはいけない。店頭で店員の前で字を書くことに羞恥心をおぼえる人もいるが、ここはグッとこらえて平常心を保つ。普段の大きさの字を普段のスピードで書く。できれば座って書けるお店が良いだろう。
購入後のエージング
店頭で自分に合った一本を選び出すのは大仕事だが、それですべてが終わったわけではない。買ってからが本当の勝負だ。書いて書いて使い込むことにより、ペン先が自分の癖に馴染んでくる。個人により万年筆を持つ角度などが異なるので、万年筆は他人に貸してはならない。
書けば書くほど手に馴染み、思うように字が書けるようになるはずだ。
そうならないなら、それは不幸な出合だったか、何かが狂ったのである。メンテナンスとクリニックを受けるべきだ。書き癖や好みが変化したなど、原因が自分の側にある場合もある。その場合には、ペン先を交換したり新たな万年筆を探す必要があるのかも知れない。
メンテナンスとクリーニング
自分でできるメンテナンスで一番重要なのが、クリーニングだ。
クリーニングは、まずぬるま湯に数時間から一晩中浸けておき、その後に何度もぬるま湯を出し入れし、水に色が着かなくなるまで繰り返す。カートリッジ式の万年筆には差し替え用のシリンダー式インク・タンクを利用する。このクリーニングをすると、驚くほどの色の付いた水が出てくる。
特に黒インクは万年筆の中に入れたまま長期間放置しない。
シリンダー式の万年筆の場合、インクが空になって補充する際に、シリンダーで数回インクを出し入れしておくと、簡単な洗浄になって目詰まりしにくい。
タンク内のインクの乾燥が異常に早いようなら、キャップの閉まりが悪い可能性がある。または、キャップにヒビが入っていることもある。暗い所で外から光を当て、キャップを回しながら中を覗いてみる。光が漏れ込むようなら交換が必要。ドイツやスイスの万年筆なら、交換部品は長期間在庫してある。ヒビが見付からない場合、キャップのネジ部が汚れていてしっかり閉まらないこともある。
さらに、万年筆の故障ではなく、インク瓶のインクの残量が少なくなって、万年筆に吸い上げられないこともよくある。このようなことを避けるために、新しいインク瓶をいつも用意しておく。モンブランのインク瓶は、底がハイヒール靴のようにくびれていて、ある程度の残量までは確実に吸い上げることができる。また、モンブランやペリカンの万年筆のように、シースルーのインク窓があると、インクの残量やインクが十分吸入されたかどうかを確認できて便利だ。
万年筆は円筒形なので転がりやすい。キャップを取った状態で机などに置かないよう習慣づけよう。落としてペン先を曲げてしまった場合は、素人には手に負えない。すぐに修理に出そう。手先の器用な人がペンチなどで直しても、元の書き味は絶対に戻らない。ペン先は交換部品としてメーカーは持っているが、せっかく自分の書き癖に合うようエージングしたペン先を失うことになる。
また、筆圧や字体の好みが変わってより太い字やより細い字が欲しい場合も、メーカーに相談しよう。リミテッド・モデルのような特殊なもの以外、ペン先の在庫はあり交換してくれるはずだ。
キャップをシャフトの後ろに挿して使用すると、シャフトにリング上のキズが付く。短いシャフトや重量バランスの関係から挿さざるを得ない場合もあるので、致し方ない。しかし心配ご無用。メーカーにポリッシュを依頼できる。販売店によっては、自分でポリッシュ・マシーンを持っているので、その場で磨いてくれる。また、古い時計の風防ガラスはアクリルなので、定期的なポリッシュが必要だ。時計職人のいる時計屋には、やはりポリッシュ・マシーンがあるので、その場で磨いてくれる(はず)。

左から、「アガサ・クリスティー」(1993年)、「オスカー・ワイルド」(1994年)、「ヘミング・ウェイ」(1992年)の文豪シリーズ。
モンブラン社リミテッド・モデルの銘品でマニア垂涎の的。(他にもまだまだ沢山のモデルがあるが…)
ヨーロッパの中古市場ではいまだに新品同様が手に入る。
「アガサ・クリスティー」約15万円、「オスカー・ワイルド」約12万円、「ヘミング・ウェイ」約35万円。同時発売のボールペンも同じデザインであり、万年筆よりはずっと安い。万年筆とボールペンのセットもある。

◆ドイツ・ペリカン社のリミテッド・モデル
「ブルー・オーシャン」(1993年)
シースルーの深いブルーの透明感が得も言われず幻想的。
ヨーロッパの中古市場でも新品同様はほとんど見かけなくなった。約20万円。

◆アメリカ・パーカー社のリミテッド・モデル
「デュオフォールド・マンダリン」(1993年)
1927年のオリジナル・マンダリンの復刻版。強烈なイエローが印象的だ。中古市場での新品価格は約12万円。

◆ドイツ・モンブラン社のモデル149
マイスター・シュトゥック(マスター・ピース)・ファミリーのフラッグシップ・モデル。世界中の物書き達に愛されている、永遠の銘器。極太のシャフトは長時間の執筆にも疲れを感じさせない。大きなインク・タンクも特徴。シースルーのインク窓により、インクの残量が確認できる。オリジナルは1948年に誕生。

◆ドイツ・ペリカン社のスーヴェレーン M800
スーヴェレーン・ファミリーは、太めシャフトの M1000 から、M850、M800、M600、M450、M400、細めシャフトの M300、M200 まで8モデルが揃っている。
キャップのクリップがペリカンのクチバシをかたどっていてとても愛らしい。ドイツやスイスの専門誌での年間人気投票でも、いつもモンブランと首位を争う。これもシースルーのインク窓があり(シャフトの模様に溶け込んでいて写真では分からない)、インクの残量が確認できる。

◆アメリカ・パーカー社のデュオ・フォールド
オリジナルは1928年のモデルで、その復刻版。内部メカは共通で5色のシャフト+キャップが用意されている。シリンダー式とカートリッジ式インク・タンク兼用モデルで差し替えができる。
カートリッジ式はもちろん、シリンダー式もタンク容量が小さいので、多量の字を書く人には向かないが、セルロイドを使ったとてもきれいなモデルだ。

◆アメリカ・シェーファー社のフラッグシップ・モデル、レガシー
1940年代から継承されている当時のモダンなストリーム・ラインが伝統。太く重めの金属シャフト、滑りの良い固めのペン先で、独特の書き味は最高。男性に愛用者が多い。
現在は、外観はほとんど変わらずに、メカが改良されたレガシー2にモデルチェンジされている。
万年筆の場合、内部メカニズムや工作精度は現在も進歩し続けている。この点が時計との大きな相違点だ。しかしながら、製造の合理化や利潤追及がそれほど求められなかった時代の製品には、何か特別なものがある。オーラとでも呼ぶしかない雰囲気を持っているのだ。
ヨーロッパでは、定期的なオークションやメッセがあり、ディーラーや同好の士が多く参加する。